【Vm3ニュース】「無麻酔スケーリング問題を考える」(ファームプレス社 mVm 191号Journarl of Modern Veterinary Medicine)
今号の特集は「無麻酔スケーリング問題を考える」です。
日本小動物歯科研究会が2019年に会員向けに行ったアンケート調査では、無麻酔でのスケーリング処置により、「歯周病の改善がみられないもしくは悪化した」「口周囲を触らせなくなった」「口腔内粘膜などの損傷・出血」「下顎骨の骨折」「歯の破折」などの歯科領域関連だけでなく、「股関節脱臼・椎間板ヘルニア」などの歯科以外の領域でも有害事象が生じた事例が報告されているとのことです。
また、「デンタル用製品やその他のもので、歯の破折症例を見聞きしたり経験したことがありますか」との問いには、「ひづめ」が最も多く、次いで「アキレス腱」「鹿の角」「デンタルガム」「おもちゃ」と続くとのことです。
なお、来年2021年3月に日本獣医倫理研究会主催、日本小動物歯科研究会共催で「無麻酔での歯垢歯石除去による併発症とデンタルケアを目的に与えた製品の歯の併発症を考える」というテーマでシンポジウムを開催予定であるとのことです。
《Vm3オピニオン》
無麻酔スケーリングは動物病院でも行うところがありますが、トリミングサロンやペットショップでも行われています。
但し、出血を伴うような歯垢歯石除去はトリミングサロンやペットショップでは法的に認められていません。出血時の止血は医療行為と判断されるためです。
また、「歯周病の改善がみられない」や「悪化した」のは根本的な口腔内の清掃になっていなかったためと思われ、「口周囲を触らせなくなった」というのは、動物にとってとても不快な或いは痛かった記憶として残っているためであろうと思われ、今後の病気の発見の遅延にも繋がりかねません。
さらに、無理な力をかけて骨折や破折を起こしては、飼い主さんに後悔しか残りませんし、補償の問題も生じる可能性もあります。
確かに麻酔による事故も皆無ではないため、「無麻酔で」と希望される飼い主さんもいらっしゃると思いますが、そこは無麻酔処置のリスクとベネフィットを考えて、お断りになって歯科専門の動物病院の受診を勧めるべき場面もあると考えます。それは、決してご自身の技術力や経験を否定するものではありません。
また、飼い主さんが犬の歯に良かれと思って与えた「ひづめ」「アキレス腱」「鹿の角」「デンタルガム」で歯を折ってしまうことになっていることは本末転倒です。
固いものを齧らせれば、歯や顎が鍛えられると思っておられる方もいらっしゃいますが、私たち人間の歯と同様、それも限度があり、あまりにも固いものは却って害になります。
そして、この固さについてはまだ適切な製品規格ができていないと伺います。それはとても危険なことです。
獣医師向けの商業誌ですが、今号の特集は獣医師だけでなく、トリマーさんやペットショップで無麻酔スケーリングを行っておられる方々、ひづめやアキレス腱を飼い主さんに勧めておられる方々、そしてそのメーカーの方々にも是非お読みいただきたい特集だと思います。
なお、本書は以下から購入することができます。
http://www.pharm-p.com/mvm/mvm_top.html